東京地方裁判所 昭和62年(ワ)6817号 判決 1990年11月21日
アメリカ合衆国カリフオルニア州 コンプトン グラツドウイツクストリート 二〇〇六
原告
ウインドサーフイン インターナシ ヨナル インコーボレイテツド
右代表者
ホイール シユバイツアー
東京都渋谷区本町一丁目六〇番三号
原告
勝和機工株式会社
右代表者代表取締役
鈴木東英
原告ら訴訟代理人弁護士
三宅正雄
安江邦治
右訴訟復代理人弁護士
串田誠一
右輔佐人弁理士
松永宣行
東京都豊島区西巣一丁目五番六号
被告
株式会社ネプチユーン
右代表者代表取締役
竹之内信広
右訴訟代理人弁護士
吉澤敬夫
右当事者間の昭和六二年(ワ)第六八一七号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告ら各自に対し、三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告勝和機工株式会社(以下「原告勝和機工」という。)に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 (一) 原告ウインドサーフイン インターナシヨナル インコーポレイテツド(以下「原告ウインドサーフィン」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有していた。
特許番号 第六三〇三五二号
発明の名称 風力推進装置
出願日 昭和四四年三月一一日
公告日 同四六年五月三一日
登録日 同四七年一月一一日
存続期間満了の日 同六一年五月三一日
(二) 原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、次のとおり、範囲を日本国全域とする独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権の設定を受けていた。
(1) 昭和四九年八月二〇日から同五六年三月二七日まで 独占的通常実施権
(2) 同五六年三月二八日から同五九年八月二〇日まで専用実施権
(3) 同五九年八月二一日から同六一年一月二七日まで独占的通常実施権
(4) 同六一年一月二八日から同年五月三一日まで 専用実施権
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づき訂正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許審判請求公告中の訂正明細書(以下「本件訂正公報」という。)の特許請求の範囲の項記載のとおりである。
3 被告は、昭和五七年頃から同六一年五月三一日までの間、業として、別紙目録記載の風力推進波乗り装置(以下「被告製品」という。)を販売した。
4 被告製品は、次に述べるとおり、本件発明の構成要件をすべて充足し、その作用効果も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。
(一)(1) 本件発明の構成要件は、次のとおりである。
A 使用者を支持する本体装置である波乗り板があること
B 推進力として風を受け入れる風力推進手段があること
C 前記風力推進手段は、
ア 円柱と、
イ 該円柱に長い端縁部で取り付けられた帆と、
ウ 前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され、かつ、一端で前記円柱に、また、他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、
エ 該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントと
を備えることを特徴としていること
(2) 本件発明の作用効果は、次のとおりである。
波乗り板に帆を設けることによつてこれを水上ボートにかえる場合、突風や激風によつて波乗り板が転覆する危険性が大であつたが、本件発明は、突風又は激風が襲つた場合、使用者が帆から手をはなし風力により帆を風下に倒すことにより、本体装置の転覆を免れることができるようにしたものであり、更に、使用者がブームを把持し、風向きに対し、帆の位置及び角度を調節するだけで、波乗り板を使用者の望む方向に進行させることができるという作用効果を有する。
(二)(1) 被告製品は、別紙目録記載のとおりの構造であるところ、
ア 波乗り板である本体装置(ボード部)a(被告製品についてのa、b等の記号は、別紙目録記載の記号を指す。)を有し、かつ、同装置は、使用者を支持する働きを有しているので、本件発明の構成要件Aを備えており、
イ マストcにその一辺を嵌装されたセイルbが存在し、また、マストcの下端部はゴム・ジョイントkの上部に嵌合され、右ゴム・ジョイントkのジョイント筒は屈曲部と、屈曲部は結合部と各連結されて、本体装置(ボード部)aに結合され、セイルbが別紙目録の三3に記載する態様の作動(作用効果)をするから、推進力として風を受け入れる風力推進手段を有するものであり、したがつて、本件発明の構成要件Bを備えており、
ウ マストc、セイルb、一対のブームd及びマストcを本体装置(ボード部)aに回転及び起伏自在に連結するゴム・ジョイントkを備え、かつ、各部材は、別紙目録の三1ないし6に記載する態様の作動をするから、本件発明の構成要件Cを備えている。
(2) 被告製品の作用効果は、本件発明のそれと同一である。
5 原告ウインドサーフイン及び原告勝和機工は、原告勝和機工製造に係るセイルボード(以下「原告製品」という。)を原告勝和機工の子会社である訴外ウインドサーフイン・ジヤパンを通じて販売していた。
被告は、原告ウインドサーフインが本件特許権を有し、かつ、原告勝和機工が前記1(二)のとおり独占的通常実施権ないし専用実施権を有することを知りながら、昭和五七年頃から同六一年五月三一日までの間、被告製品を少なくとも二六五〇艇販売した。
原告らは、被告の右行為により、原告製品の販売数量が少なくとも二六五〇艇、金額にして五億二三〇〇万円減少したため、次のとおり損害を被つた。
(一) 原告勝和機工が原告製品を販売して得る利益は、販売価格の二五パーセントであるから、失つた利益の額は、少なくとも一億三〇七五万円(五億二三〇〇万円×二五パーセントー一億三〇七五万円)を下らない。
(二) 原告ウインドサーフインは、原告勝和機工に対する本件特許権の独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権設定の対価として、正味販売価格の六パーセントに相当するロイヤリテイーを受ける権利を有していた。したがつて、原告ウインドサーフインは、原告勝和機工が五億二三〇〇万円相当の原告製品の販売をすることができなかつたことにより、その六パーセントに相当する三一三八万円のロイヤリテイー収入を失い、これと同額の損害を被つた。
6 よつて、原告勝和機工は、被告に対し、前記5(一)の損害一億三〇七五万円(ただし、うち三一三八万円は、原告ウインドサーフインの請求と不真正連帯債権)のうち一三〇〇万円、原告ウイドサーフインは、被告に対し、前記5(二)の損害三一三八万円(ただし、原告勝和機工の請求と不真正連帯債権)のうち三〇〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1(一)は認める。同1(二)は知らない。
2 同2は認める。
3 同3のうち、被告が別紙目録商品名一覧表中、次の商品名のセイルボードを販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告製品は、別紙目録の図面及び説明書記載のとおりのものではないが、被告製品のジョイントの屈曲可能な部分は、ゴム又はプラスチツクによる可撓性材料で形成されている。
MAGUUM PLUS
390
370
300
COMPETITION
NOVA
FUN
SEA JUMPER
ENDURO MKⅡ
SODIM ST. TROPEZ S. T.
RAFAL S. R.
ECLAX S. E.
SALSA
ROXY
FUNKY
CHAPTER 315
CHAPTER 285
CHAPTER 270
CHAPTER 250
MAUBO
RAP
ESPACE
DIVISION Ⅱ
COMPOSIT HP33
HP28
HP36
BROWNING CRAZY RED(Ⅰ、Ⅱ)
WILD GREEN
BLUE UP
CUP 1
MAD BLACK
SLALOM GUN
SPEED GUN
WAVE RIDER
OPEN Ⅱ
SL TERIITEHAU
4 同4(一)(1)は認め、同(一)(2)については、本件発明固有の作用効果であることは否認する。同4(二)は否認する。
5 同5は否認する。
三 被告の主張
被告製品は、以下に述べるとおり、本件発明の構成要件Cエを充足しない。
1 本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初の明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、極めて抽象的かつあいまいであり、「物」として記載があるのは、「本体装置」と「風力推進装置」の二つの語のみであつて、その余の記載は、右装置の機能又は作用を意味するにすぎず、しかも、その機能又は作用は、本件発明の特許出願前の公知のヨット、セイルボードなどのそれと同一であり、結局、本件発明は、物の発明としての技術的範囲の特定すら不可能なものであるという特殊な事情があつた。このため、本件特許権について多数の無効審判が請求され、一たんは無効審決が出されたりしたので、本件発明の特許権者自身、訂正審判請求をしてその特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項を大幅に訂正し、今日に至つている。その訂正審判請求において、特許権者は、その特許請求の範囲を減縮し、ブームに関する要件やユニバーサルジョイントに関する要件などを実施例に記載の構造に限定したのである。すなわち、請求人である原告ウイントサーフインは、訂正審判請求書において、その特許請求の範囲の訂正について説明するに当たり、「さらに、上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイトとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、…上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。」と述べ、特許請求の範囲を実施例及び図面に示したとおりのものに限定することを明らかにしている。更に、発明の詳細な説明の項の訂正箇所について説明するに当たり、「上記26の「波乗り板10と…ブーム16、18とを」を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」とする訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。」として、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置は、実施例に記載された構造のものであることを明言している。そして、ユニバーサルジョイントの構造及び機能については、その説明を詳細に追加している。このように、原告ウインドサーフインが実施例に記載の構造であるとして特許請求の範囲に追加した「ユニバーサルジョイント」とは、機械工学において自在軸継手と呼ばれている継手にほかならない。
これに対して、被告製品のゴム・ジョイントには、機械工学においてたわみ軸継手と呼ばれる継手であり、自在軸継手とは異なつた分類に属する継手であるうえ、本件発明の実施例の構造とは明らかに異なるものであるから、被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれないことは明らかである。
2 原告らは、訂正審判請求においては、ユニバーサルジョイントの概念規定など行つておらず、ユニバーサルジョイントは、「円柱」を「波乗り板に連結する」ためのジョイントであつて、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるよう」な機能を有するジョイントでありさえすれば、どのようなジョイントであつても、ユニバーサルジョイントに当たると主張する。しかしながら、「ユニバーサルジョイント」なる語は、メカニカルな自在軸継手を意味し、ゴムのたわみを利用するゴム軸継手などを包含しないものであることは、わが国において定着した語法であり、原告らの主張は、このような通常の語法に反するものである。特許法施行規則二四条様式一六備考八では、明細書に用いる用語は、その有する普通の意味で使用し、特定の意味で用いるときは、その意味を定義すべきことを要求している。ところで、本件明細書には、「ユニバーサルジョイント」がこのような通常の語法とは異なる意味である旨の定義などは、どこにも見当たらないのである。むしろ、本件明細書には、「ユニバーサルジョイント」については、通常の語法どおりのメカニカルなユニバーサルジョイントについての詳しい説明と図面しか存在せず、「ユニバーサルジョイント」が通常の語法を離れた意味を有するなどと解する余地はない。
また、原告らは、本件明細書の「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手…」なる記載がユニバーサルジョイントを広く解する根拠であると主張するが、右記載は、訂正によつて接手をユニバーサルジョイントに限定する前の明細書の記載が過誤によつて意味不明のまま残されたものと解するほかはない。右記載部分は、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント…、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている」というのであつて、ここでは、「ユニバーサルジョイント」を実施例の一つとして取り扱つていることからみて、訂正の趣旨と矛盾し、明らかに訂正すべきを過誤によつて不完全なまま残したものと考えられる。なお、付言するに、ここにいう「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の例であるなどと解することはできないはずである。そのような「接手」は、明らかに「ユニバーサルジョイント」よりは広い概念であり、広い概念が狭い概念の例であるなどということは論理的にありえないからである。
原告ウインドサーフインは、前述のとおり、訂正審判請求書において、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置は実施例に記載の構造であることを明言しているのであるから、同原告が、今になつて、明細書に全く記載すらもないゴムジョイントがユニバーサルジョイントに当たるなどと主張することは、禁反言の法理にも反するものといわなければならない。
3 原告らは、本件発明にいう「ユニバーサルジョイント」は、訂正審判請求による訂正前も訂正後も、(1)例えば三個の回転軸線を備えた接手及び(2)又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手を指すとし、その根拠として、訂正前の明細書(当初の明細書)と訂正後の明細書(本件明細書)の記載内容に変更がないと主張する。しかしながら、訂正前の明細書の右記載部分は、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」というのであるから、訂正前においては、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と並んで、実施例の一つとして取り扱われていたことは疑いない。ところが、原告ウインドサーフインは、訂正審判請求によつて、特許請求の範囲中に「ユニバーサルジョイントを備える」ことを明記することによつて、訂正前には「実施例」としていた両者のうち、「ユニバーサルジョイント」を構成要件中に取り入れたのであるから、これによつて、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」は、本件発明に包含されないことが明らかになつたのである。このように、特許請求の範囲の減縮によつて、連結手段を「ユニバーサルジョイント」に限定した以上、訂正後の明細書に前記と同様な記載が残つていても、それ以外のあらゆるジョイントが包含されることはない。また、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」なる概念は、「ユニバーサルジョイント」よりも明らかに広い概念であるから、広い概念が狭い概念の例であるとするのは、文理上無理である。更に、若しも、原告らが主張するように、使用者が帆を回転及び起伏させることができるような機能を有するジョイントでありさえすれば、どのようなジョイントであつても、ユニバーサルジョイントに当たるとすると、「ユニバーサルジョイント」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とは、同じ趣旨であることになり、それでは、「例えば一の語が意味する例示としての意味が読み取れないことになるから、この点からも、原告らの主張は、失当である。
「ユニバーサルジョイント」なる語は、メカニカルな自在軸継手を意味することは、通常の語法からも、本件明細書の記述上からも疑いはないが、次の点も、これを裏付けるものである。すなわち、原告らが主張するように、「帆を回転及び起伏させることができるような機能」を有するものであれば、すべて「ユニバーサルジョイント」に当たるとすれば、例えば、帆をボードにロープでつないだようなものも「ユニバーサルジョイント」ということになるが、「ロープ」を「ユニバーサルジョイント」とすることは、いかにも不自然である。ところで、原告らの関係会社で、セイルボードの販売を担当していたウインドサーフインジヤバン社のカタログには、本件発明の発明者自身の原稿に基づくセイルボード開発の裏話などが紹介されている。それによると、本件発明の発明者は、開発の過程で、「マストのつけ根をロープで船体の真ん中に結びつける」ことを検討したが、「実際にはロープではなく、ユニバーサル・ジョイントを使いました」として、発明者自身、「ロープ」によるジョイントと「ユニバーサル・ジョイント」とを明瞭に区別している。また、同カタログのユニバーサル・ジョイントの解説では、ユニバーサル・ジョイントを「正確には、メカニカル・フレキシブル・ジョイントという」と明確に定義付けている。更に、原告らがユニバーサル・ジョイントに固執し、ゴムジョイントを販売しない理由を解説した部分では、「なぜ、ホイル・シユワイツアーが、そしてWSJ社が、あのガチヤガチヤと大げさなユニバーサル・ジョイントをいまだに使い、カツコいいゴム製のものを使わないのか。理由はハツキリしています、強度と耐久性において、まつたく比べものにならないからです。」と解説しており、ユニバーサルジョイントとゴムジョイントとを明らかに区別しているのである。そして、原告らが本件発明の実施品として販売したセイルボードのジョイントは、現実に本件明細書に記載されたものと同様のメカニカルジョイントに限られている。ゴムジョイントは、ユニバーサルジョイントのように、複数の軸を組み合わせて帆の起伏を可能にするものではなく、いわば「無軸」である点で、前記ロープによるジョイントと軌を「にするものであり、ユニバーサルジョイントなる概念に包含されないことは明白である。
原告らは、「自在軸継手一は動力の伝達を行うものである点で本件発明のユニバーサルジョイントとは異なると主張するが、本件明細書記載のユニバーサルジョイントは、三軸であることにより、動力の伝達ができないのは当然であるが、前記開発過程の解説をみても明らかなとおり、機械用語にいわゆるユニバーサルジョイント、すなわち、軸継手を本件発明に応用したものであることは疑う余地がない。
4 原告らは、本件発明にいう「ユニバーサルジョイント」は動力(回転)を伝達しないものであるのに対し、「自在軸継手」は動力の伝達を行うものであるから、「ユニバーサルジョイント」は「自在軸継手」ではない、と主張している。しかし、実際には、従来周知の自在軸継手と本件発明のユニバーサルジョイントとの間には機能上も差異はなく、本件発明は、従来周知の回転を伝える自在軸継手をそのまま応用しているのである。これを本件発明の特許出願の願書添付の図面中第2図を参照して説明する。すなわち、同図に示されているユニバーサルジョイントにおいて、マストが軸方向(この軸を便宜上仮にα軸とする)に回転すると、該回転はピン48(この軸を同じくX軸とする)、ピン62(この軸を同じくY軸とする)を介してクレビス58をその軸方向(ねじ68の軸方向。これを同じくβ軸とする)に回転する。マストがX軸方向、あるいはY軸方向に傾いても、マストのα軸回転は、クレビス58のβ軸回転として伝達されるようになつている(本件発明においては、マストの回転を波乗り板に伝える必要はないので、第2図では、クレビス58はねじ68上で空転するようになつているが、少なくとも、マストの軸(α軸)とクレビス58の軸(β軸)とは、共動して回転するようになつていないと、マストはX軸とY軸の交差する十字方向に起伏することはできても、それ以外のあらゆる方向にはスムースに回転、起伏することができない。)。このような構成は、まさに従来周知の自在軸継手の構成そのものである。
また、仮に従来周知の「自在軸継手」と本件発明の「ユニバーサルジョイント」との間に動力を伝達しないという意味で若干の機能上の差異があつたとしても、それを理由に本件「ユニバーサルジョイント」が「自在軸継手」ではないとする原告らの主張は、本末転倒というべきである。「ユニバーサルジョイント」なる語は、本件発明の発明者が新規に作り出した造語ではなく、古くから慣用されている機械用語であり、特定の機械要素を示すものとして一般に知られている語である。したがつて、本件明細書中に特に断りなく「ユニバーサルジョイント」なる語が用いられていれば、発明者はかかる周知の機械要素を多少改変して(具体的には、クレビス58がねじ68の軸回りに回転するように回転軸を一軸追加して)本件発明に応用したものであると理解するのが極めて自然である。この場合、かかる改変によつても、基本的な構成が従来周知のものと一致するものである以上、本件明細書中の「ユニバーサルジョイント」なる語を、このような慣用語と異なつた意味と考えることなどはできない。
原告らは、「ユニバーサルジョイント」は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」そのものであるとする。しかし、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にする」とは、接手の機能を意味するにすぎないから、原告らの主張は、物の発明にあつて、機能さえ同一であれば、構成いかんを問わず同じ物であるというのに等しい。本件発明の「ユニバーサルジョイント」がそのように広い意味ではありえないことは、次のとおりである。まず、本件発明における接手に関する要件については、次のような変遷がある。当初の明細書の特許請求の範囲では、「……推進装置が使用者不在のとき旋回防止力を失う……」という、半ば意味不明の極めて広い記載となつていた。ところが、本件特許権について多くの無効審判が請求されるに及び、原告ウインドサーフインは、第一回の訂正審判を請求し、「……円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする接手と……」と訂正しようとした。しかしながら、現実に無効審決が昭和五八年五月二七日に出されると、原告ウインドサーフインは、昭和五八年七月二七日、右第一回の訂正審判請求を取り下げ、新たに第二回目の訂正審判請求をし、「……帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」と訂正することを求め、これが容れられて今日に至つているのである。右経過を見れば、「ユニバーサルジョイント」なる要件の追加は、原告ウインドサーフインが多くの無効審判請求を回避するため、接手に関する要件を次第に減縮した結果であることが明白であり、少なくとも、「風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする」という機能を有するもののすべてを包含する広いものではありえないことが容易に分かる。
次に、通常の語法で「ユニバーサルジョイント」とは、いわゆる自在軸継手を意味し、接続する軸の端部に更に十字形に交差する二つの軸を機械的に組み合わせて軸が一定角度で交わることを可能にするものである。したがつて、本件発明の「ユニバーサルジョイント」の意義も、かかる意味を離れて解釈することはできない。ユニバーサルジョイントにはこのように特定の意味がある以上、「帆を回転及び起伏させることができるような機能」を有するものすべてがこれに含むと解することはできない。例えば、マストをボードにロープでつないだ場合や、マストをスプリングでボードに連結したようなものも、「帆を回転及び起伏させること」は可能であるが、「ロープ」や「スプリング」を「ユニバーサルジョイント」と同一視することができないことは明白である。検乙第一号証は、被告が販売していた別紙目録商品名一覧表記載の「マグナム」タイプのセイルボード用のジョイントであるが、その構造は、先の狭くなつた中空の筒同士に、両端に結び目をつけたロープを通して連結したような構造をしている。実際にはロープではなく、両端に拡大部を設けた細いプラスチツクで連結されているが、マストを起伏可能ならしめるのは、ロープと同様の細いプラチツクの可撓性によつているのである。このような構造は、複数の軸を組み合わせてマストを起伏可能とするものとは明らかに差異があり、「ユニバーサルジョイント」に包含されないことが明らかである。いわゆるゴムジョイントも、ユニバーサルジョイントのように、復数の軸を機械的に組み合わせてマストの起伏を可能にするものではなく、専ら、素材の可撓性によつてマストの起伏を可能にするものであつて、機械的な軸を持たない点で、前記の例のジョイントや、ロープによるジョイントと軌を一にするものであり、「ユニバーサルジョイント」なる語に包含されないことは明らかである。
四 原告らの反論
1 被告の主張1について
原告ウインドサーフインは、特許請求の範囲については、「本体装置」を「波乗り板」に減縮し、併せて、「風力推進装置」の用語の意味を明瞭にするために、「風力推進手段」と「風力推進装置」とを区別して明瞭にするとともに、「風力推進手段」の構造を明瞭にするための訂正を行つたにすぎない。そして、右訂正に伴う発明の詳細な説明の項の訂正を行つたが、「ユニバーサルジョイントの要件」を特に限定するような訂正は行つていない。
なお、被告は、訂正審判請求において、実施例及び図面に示されたとおりのものに限定することを明らかにしていると主張するが、右実施例及び図面に関する記載部分は、訂正によつても、その内容には全く変更がない。すなわち、本件発明にいうところのユニバーサルジョイントは、右訂正前も訂正後も、(1)例えば三個の回転軸線を備えた接手、及び(2)又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手を指しており、また、右接手は、「風力推進手段の円柱を波乗り板に連結」し、「風力推進手段の帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように連結」しているような構成及び作用効果を持つものであることは、極めて明瞭であつて、被告のいう訂正による限定などどこにも存在しない。
被告は、本件発明のユニバーサルジョイントは、機械工学において自在軸継手と呼ばれている継手にほかならないと主張するが、被告の右主張は、合理的な理由によつて裏打ちされていないばかりか、逆に、「自在軸継手」と呼ばれているものに対する認識に誤りがある。いわゆる「自在軸継手」と呼ばれているものは、一対一の対応関係において、動力の伝達を行う機能を有するものであつて、本件発明のユニバーサルジョイントとは、全く相いれないかけ離れたものである。
したがつて被告製品のゴム・ジョンドkは、本件発明にいうユニバーサルジョイントにほかならない。
2 被告の主張2及び3について
被告は、明細書記載の「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とは別の実施例であり、三個の回転軸線を備えた接手はユニバーサルジョイントの例であるが、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」はユニバーサルジョイントの例ではないと主張する。被告の右主張の拠り所は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」なる概念は、「ユニバーサルジョイント」よりも広い概念であり、また、「ユニバーサルジョイント」とは、メカニカルな自在軸接手を意味する、というところにある。しかしながら、「自在軸継手」は、動力の伝達を行うものであるから、本件発明のユニバーサルジョイントとは、構造及び作用において著しく相違する。次に、動力を伝達しない(すなわち、回転を伝えない)本件発明のユニバーサルジョイントは、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」そのものであるから、後者は前者より広い概念のものであるとの被告の主張は、失当である。したがつて、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」は、ユニバーサルジョイントの例ではない旨の被告の主張は、全く根拠のないものである。本件明細書の記載を素直に読めば、「三個の回転軸線を備えた接手」及び「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のいずれもが、ユニバーサルジョイントの例であることは明白である。
3 被告の主張4について
被告は、従来周知の自在継手と本件発明のユニバーサルジョイントとの間には機能上も差異はなく、本件発明は、従来周知の回転を伝える自在軸継手をそのまま応用しているのであると主張する。しかしながら、本件発明のユニバーサルジョイントの一実施例として本件明細書に記載されている「三個の回転軸線を備えた接手」は、円柱12を頭付きピン48、頭付きピン62及びねじ68の各回転軸の周りに回転させることができるような接手であるが、この接手の機能としては、帆を介して円柱12が受けた風力を波乗り板10には絶対に伝達しないように構成されている。そうであるから、「突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、……波乗り板を安定させ、その転覆を防ぐことができる」のであり、また、使用者をして、風の方向とは関係なく、自らの希望する方向に波乗り板を進行させることが可能なのである。もし、本件発明のユニバーサルジョイントではなく、従来周知の「自在軸継手一を便用した場合、風力は右継手を介して波乗り板10に伝達され、波乗り板10は時々刻々の風の方向の変化につれ、「風の中の羽のように、いつも回つてしまう」のである。このように、本件発明のユニバーサルジョイントは、従来周知の「自在軸継手」とは、似ても似つかない独自の機能を有する「接手」なのである。
被告は、仮に従来周知の「自在軸継手」と本件発明の「ユニバーサルジョイント」との間に動力を伝達しないという意味で若干の機能上の差異があつたとしても、それを理由に本件「ユニバーサルジョイント」が「自在軸継手」ではないとする原告らの主張は、本末転倒というべきであるという。しかし、一般的常識的観点からすると、構成、機能などに差異があれば、二つの装置は異なつたものであると判断するのが、論理的必然的帰結ということになるはずであり、被告の主張こそ、本末転倒というべきである。
また、被告は、本件発明の「ユニバーサルジョイント」の意義について、特に本件明細書中に断りがないから、従来周知の「自在軸継手」と同一のものと解釈しなければならないという。しかし、本件明細書中に、本件発明のユニバーサルジョイントは、「例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」としたうえで、特定の実施例として、あるタイプの装置の構成、機能を図面に基づいて詳細に説明しているのであるから、本件発明のユニバーサルジョイントが従来周知の「自在軸継手」とは全く異なる独特のものであることは、十二分に明らかにされている。
なお、被告は、本件発明のユニバーサルジョイントにあつては、実施例に基づいて説明すれば、頭付きピン48及び頭付きピン62の各回転軸のほかにねじ68の回転軸を有することを、多少の改変と矮小化したうえで、基本的な構成が従来周知のものと一致すると主張しているが、右主張は、甚だしく間違つているばかりか、主張自体失当とさえいえる。本件発明のユニバーサルジョイントは、右「一軸の存在」によつて、従来周知の「自在軸継手」とは、構成及び機能において全く異なる独自の装置となつているのである。
原告ウインドサーフインが第一回目の訂正審判請求の取下及び第二回目の訂正審判請求をしたのは、多くの無効審判を回避するため、接手に関する要件を次第に減縮した結果ではない。第一回目の訂正審判請求を取り下げ、第二回目の訂正審判請求をしたのは、昭和五八年二月頃、新たに同原告の代理人に選任された本件訴訟代理人及び輔佐人らが、自らの判断で最善と思う手続をとつたまでのことであり、クレーム自体の減縮をした覚えはない。
第三 証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1(一)の事実(原告ウインドサーフインが本件特許権を有していたこと)は、当事者間に争いがない。
同1(二)の事実(原告勝和機工の実施権)については、成立に争いのない(本件においては、甲号各証及び乙号各証は、いずれも成立(乙第七号証は原本の存在及び成立)について当事者間に争いがないので、以下書証の成立の真正についての摘示を省略する。)甲第一号証(特許登録原簿記録事項証明書)によれば、原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、昭和四九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から一〇年間とする専用実施権の設定を受け、昭和五六年三月二七日にその登録がされたこと、その後、昭和五九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から特許権存続期間満了(昭和六一年五月三一日)までとする専用実施権の設定を受け、昭和六一年一月二七日にその登録がされたことが認められる。
二 請求の原因2の事実(本件明細書の特許請求の範囲の記載)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と甲第二号証(本件訂正公報)によれば、本件発明の構成要件は、請求の原因4(一)(1)のとおりであると認められる。
三 請求の原因3の事実(被告による被告製品の販売)のうち、被告が別紙目録商品名一覧表中、被告主張の商品名のセイルボードを販売したことは、当事者間に争いがないが、その余の事実については、当事者間に争いがある。
四 そこで、仮に被告が原告ら主張のとおり被告製品を販売したものとして、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 原告らは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」は、本件明細書の特許請求の範囲において「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と定義され、発明の詳細な説明の項においても、特定の実施例において「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と定義されているものであるから、被告製品のゴム・ジョイントKは本件発明のユニバーサルジョイントに該当し、したがつて、被告製品は、本件発明の構成要件Cを充足する旨主張し、これに対して、被告は、本件発明のユニバーサルジョイントとは、実施例に示されているようないわゆる機械的構造の継手を意味するから、被告製品のゴム・ジョイントKはこれに該当せず、したがつて、被告製品は、右構成要件Cを充足しない旨主張するので、この点について審案する。
2 甲第二号証によれば、次の各事実を認定することができる。
(一) 本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所としては、まず、特許請求の範囲の項において、「……該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(五頁右欄一七行ないし二一行。本件訂正公報における頁行を示す。この項において以下同じ。)との記載があるほか、発明の詳細な説明の項において、(1)「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(三頁右欄一行ないし一二行)、(2)「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」(三頁右欄一三行ないし一七行)、(3)「第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。」(三頁右欄三三行ないし四頁左欄三行)、(4)「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。」(四頁左欄二〇行ないし二五行)、(5)「操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。」(四頁右欄四四行ないし五頁左欄二行)、(6)「本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぶくを防ぐことができる。」(五頁右欄四行ないし九行)との各記載があり、また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図」(一頁左欄二行ないし四行)との記載がある。図面としては、風力推進装置の外観図である第1図(六頁)中に三軸線ユニバーサルジョイント36が記載されているが、図面ではその構造は不明であり、第2図(五頁)は、三軸線ユニバーサルジョイントの断面図であつて、その詳細な構造を明らかにしている。
(二) 本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」として具体的にその構造が示されているものは、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであつて、その構造については、願書添付の図面に記載されており(本件明細書五頁2図)、また、その説明として、発明の詳細な説明の項において、「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹鋼で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区画の両側に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。長さ3インチ(七六・二mm)、直径1/4インチ(六・三mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能としている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄二〇行ないし同頁右欄一五行)と記載されている。
3 右認定の事実によれば、本件明細書の特許請求の範囲の項には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」との記載があるところ、右記載は、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能を説明したにすぎないものであつて、これがいかなる構造のものであるか、その構成については何ら説明するものではない。
次に、発明の詳細な説明の項においては、まず、右同様の記載(前記2の認定事実(一)中の(1)の記載)があるが、この記載が「ユニバーサルジョイント」の構成を何ら説明するものではないことは、既に述べたのと同様である。このほかに、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」との記載(同(2)の記載)があり、右記載について、原告らは、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であることを示しており、これによつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成を明確にしていると主張し、これに対して、被告は、右記載は、実施例として「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との二種類の継手があることを示しているものであり、「ユニバーサルジョイント」はこのうち前者に限定され、後者はこれに属さない別個の継手を意味するものであると主張する。右記載において示された「ユニバーサルジョイント」の実施例がいかなる範囲のものを指すかについての判断はしばらくおくとしても、仮に原告ら主張のように「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であるとしたところで、右記載からは、「ユニバーサルジョイント」の実施例として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、いわゆる三軸線ユニバーサルジョイント(その構造については、前認定のとおり、発明の詳細な説明の項及び図面において明らかにされている。)が含まれることは明らかとなるものの、「又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」については、その作用ないしは機能を述ぺるだけで、具体的にどのような構成のものがこれに当たるかは一切明らかでない(前認定のとおり、本件明細書においては、三軸線ユニバーサルジョイントのほかには具体的な構成を明らかにする記載は、一切存在しない。)。また、「風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、」との記載(同(6)の記載)についても、同様に、この記載によつては、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能は明らかとされているが、その構成は一切明らかでない。発明の詳細な説明の項におけるその余の「ユニバーサルジョイント」の記載(同(3)、(4)、(5)の各記載)は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造を説明するものである。
また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられているものの、第2図においてその構造が示されているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントである。
そして、前認定のとおり、本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所は以上ですべてであつて、また、「ユニバーサルジョイント」の実施例についても、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造が明らかにされているだけであつて、それ以外の継手について、その構造を明らかとするような説明文も図面も一切存在しない。
以上のとおり、本件明細書において用いられている「ユニバーサルジョイント」の語については、右に認定した以上に、右明細書上においてその内容ないし構造が説明あるいは図面によつて明らかにされているものとはいえない。
なお、甲第一二号証の一ないし四、乙第一、第二号証の各一ないし三、第六号証の一ないし三によれば、日刊工業新聞社の昭和六〇年五月三〇日発行の「英和・和英機械用語図解辞典第二版」には、「universal fount自在継手=universal coupling(647)」とあり、「universal coupling自在継手」の項に「二軸が、ある角度(一般に30℃以下)をして交わつている場合に用いられる継手」と記載されていること、社団法人日本機械学会の昭和五二年七月一五日改訂第六版発行の「機械工学便覧改訂第六版」には、「自在軸継手」の項に「二軸の交わる角が自由に変化しても回転を伝える軸継手を自在軸継手といい、不等速形と等速形の種類がある」と記載されていること、社団法人日本機械学会の昭和四六年五月一五日初版発行の「機械図集軸継手」には、「自在軸継手」の項に「自在軸継手は、交さする二軸を結合する軸継手で、スプラインなどのしゆう動軸を併用すれば、軸継手の曲折角が変化しても回転を伝えることができる、駆動軸と被動軸の角速度比が一回転中に変わる不等速形と、変わらない等速形がある」と記載されていること、日刊工業新聞社の昭和四九年四月三〇日新版発行の「機械設計便覧(新版)」には、「交差軸継手」の項に「一平面内にあつて傾いたままの状態で回転する二軸間の伝動に用いられる軸継手であつて、自在継手(ユニバーサルジョイントuniversal fount)とも呼ばれ、次の二形式がある、(1)クロスジョイント交差軸継手、(2)等速髙差軸継手」と記載されていることが認められる。他方、甲第二号証によれば、本件発明における「ユニバーサルジョイント」は、動力の伝達を目的とするものではなく、連結された円柱と波乗り板との間に回転を伝達しないものであること、本件発明における「ユニバーサルジョイント」の実施例として本件明細書に記載された三軸線ユニバーサルジョイント36は、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付きピン62により管46とクレビス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付けたものであつて、円柱12とクレビス58との関係では「自在(軸)継手」と同様の構造であるが、円柱12と波乗り板10との関係では回転可能な丸頭のねじ68が存在することから回転を伝達しない構造となつていることが認められる。以上認定の事実によれば、機械工学上の用語としては、「universal joint」の語は、一般に、「自在(軸)継手」と同義であつて、一直線上になく、ある角度で交わる、接続された二軸間において、一方の軸の回転を他方の軸に伝える装置を意味するものであり、これに対して、本件発明における「ユニバーサルジョイント」は、動力を伝達することなく円柱と波乗り板とを連結する機能を有するものであつて、両者は、この意味においてその内容を異にするものというべきである。したがつて、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、その有する普通の意味としての、機械工学上の用語として使用されているということもできない。
以上によれば、本件明細書においては、特許請求の範囲はもちろん、発明の詳細な説明の項及び図面を子細に検討しても、「ユニバーサルジョイント」については、風力推進手段を回転及び起伏自在に波乗り板に連結する作用ないしは機能を有するものであることが明らかにされているだけであつて、その構成については、その実施例として、唯一、三軸線ユニバーサルジョイントの構造が説明及び図面によつて示されているにすぎない。
4 そして、他方、被告製品においては、本体装置(ボード部)aとマストcとがゴム・ジョイントkによつて連結されており、ゴム・ジョイントkの構造は別紙目録第2図及び図面の説明の項並びに同目録構造の項2、4記載のとおりであるというのである。
5 そこで、被告製品におけるゴム・ジョイントkを本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の実施例としてその構造が明らかにされている三軸線ユニバーサルジョイントと比較すると、右三紬線ユニバーサルジョイントは、前認定(前記2(二)記載)のとおり、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付きピン62により管46とクレビス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付ける方法により風力推進手段と波乗り板を連結するものであつて、頭付きピン48と頭付きピン62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、円柱12を各回転軸のまわりに回転可能とすることを通じて、波乗り板10上で起伏させることを可能としているが、他方、被告製品のゴム・ジョイントkは、全体に三つの部分、すなわち、上方部分であるマスト受部K1と、中間部分であるゴム製屈曲部K2と、下方部分であるボード結合部K2とからなり、本体装置(ボード部)aにはゴム・ジョイントKの下端部が結合され、ゴム・ジョイントKの上部にはマストcの下端部が嵌合されているものであつて、ゴム製屈曲部K2の材質自体の特性である弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能としているものであり、前記三軸線ユニバーサルジョイントにおける相互に直交する水平の二軸に相当する構造は存在しない。右によれば、被告製品におけるゴム・ジョイントkと本件明細書における三軸線ユニバーサルジョイントとでは、風力推進手段を本体装置上で起伏自在とする構成において、技術的思想を異にするものというべきである。
6 そして、前述のとおり、本件発明における「ユニバーサルジョイント」について、本件明細書においてその構成が明らかにされているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントだけであることからすれば、少なくとも、被告製品におけるゴム・ジョイントkのように、構成部材の材質の弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能とする構造については、本件明細書においてその技術事項の開示があるものと認めることができない。
したがつて、被告製品のゴム・ジョイントkは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」に該当するものとはいえない。
7 このことは、次の点からも明らかである。
すなわち、甲第三号証によれば、当初の明細書の特許請求の範囲の項には、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)と記載されていて、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられておらず、発明の詳細な説明の項には、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の後記記載(同一頁2欄二五行ないし二九行)、同(4)と同一の記載(同二頁3欄三八行ないし四三行)及び同(5)と同一の記載(同三頁5欄五行ないし八行)はあるものの、同(1)、(3)及び(6)に対応する記載はいずれもなく、他に「ユニバーサルジョイント」の語を用いた記載はない。図面の簡単な説明の項には前記2の認定事実(一)とほぼ同一の記載(同一頁1欄二〇行ないし二二行)があり、願書添付の図面についても、同(一)と同一の図面であることが認められる。
右のとおり、当初の明細書においては、特許請求の範囲の項に「ユニバーサルジョイント」の語はなく、また、前記2の認定事実(一)の(4)及び(5)と同一の記載中の「ユニバーサルジョイント」は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものである。したがつて、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを離れての「ユニバーサルジョイント」の語は、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の記載である「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そこで、右部分において「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、まず、右記載中の、「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との関係については、後者は具体的な構造を離れて抽象的な作用ないしは機能を説明する記載であつて、その意味する範囲は広範であり、前者も包含するものである。このように、「三個の回転軸線を備えた接手」が「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」に包含される関係にある以上、両者が、共に「ユニバーサルジョイント」の例示として、接続詞「又は」によつて結ばれる並列的な関係に立つものと解することはできない。そして、前記のような両者の内容的な関係にかんがみれば、通常の用語法としては、むしろ、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によつて並列的に結ばれているものと解するのが相当である。そうであれば、当初の明細書においては、「ユニバーサルジョイント」ついて、その例示として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、三軸線ユニバーサルジョイントが挙げられているだけであつて、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在することになる。右のとおり、「ユニバーサルジョイント」は、使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のすべてではなく、そのうちの一部を指すものである以上、その意味する範囲は、例示されている唯一の例である三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
そして、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載は、前記のとおりであつて、そこでは風力推進装置と本体装置とを連結する継手について何ら触れられていないから、右記載からは、継手として「ユニバーサルジョイント」を用いたものであつても、それ以外のものを用いた場合であつても、特許請求の範囲に含まれ得ることになる。
当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の意味が右のようなものである以上、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づく訂正後の本件明細書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、当初の明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
したがつて、前記訂正において、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものというべきであり、連結手段として、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のうち前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。
そして、被告製品において風力推進手段と本体装置とを連結しているゴム・ジョイントkが、三軸線ユニバーサルジョイントないしはこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものに該当しないことは、前述のとおりであるから、被告製品は、本件発明における「ユニバーサルジョイント」を備えるものとはいえないことになる。
8 右に述べたところは、本件発明の出願経過及び訂正審判の経過をみるとき、一層明らかとなる。すなわち、甲第一ないし第三号証、乙第三、第七号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認定することができる(この認定を左右するに足りる証拠はない。)。
(一) 昭和四四年三月一一日の本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(当初の明細書)の特許請求の範囲の項の記載は、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協動し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)というものであり、同明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載の内容は、前記7において認定したとおりである。
(二) 本件特許権が昭和四七年一月一一日に登録された後の、昭和五五年一〇月一一日に株式会社プロは、本件特許権について無効審判請求をした(昭和五五年審判第一八八一四号。プロ事件)。
(三) 右プロ事件の無効審判請求の後である、昭和五七年二月二六日に原告ウインドサーフインは、本件特許権につき最初の訂正審判請求(昭和五七年審判第三三二〇号。第一次訂正審判請求)をしたが、その内容は、特許請求の範囲の項の記載を、「使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協動し、且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進手段とを包含し、前記風力推進手段は、本体装置に枢着した円柱と、前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手と、帆および帆をピンと張るため円柱上に横方向に取付け、手で保持するようになつたアーチ状に連結される一対のブームを包含し、前記風力推進手段の位置が使用者によつて制御でき、前記風力推進手段が使用者不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」と訂正するというもので、当初の明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載については何らの訂正も請求していない。
(四) 原告ウインドサーフインは、昭和五八年七月二七日に前記第一次訂正審判請求を取り下げ、同日、新たな訂正審判請求(昭和五八年審判第一六五七七号。第二次訂正審判請求)をしたが、その内容は、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載を、本件明細書記載のとおりの「1使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(本件訂正公報五頁右欄一一行ないし二一行)と訂正し、発明の詳細な説明の項の記載についても、本件明細書記載のとおりの内容に訂正するというものであつた(図面についての訂正は請求していない。)。
そして、右第二次訂正審判請求の訂正審判請求書において、原告ウインドサーフインは、右の特許請求の範囲の項の記載の訂正は、「下記理由により、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」(同訂正審判請求書一一頁一七行ないし一八行)ものであるとしたうえ、「c)さらに、上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されだとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであること、を特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。 d)乗物の一例として波乗り板が含まれること、及び風力推進手段が円柱、帆、一対のブームおよびユニバーサルジョイントを備えることは、原本の発明の詳細な説明の欄に記載され、また、添付図面を参照しての実施例の説明に示されており、従つて、本体装置及び風力推進手段を上記のように限定することは、原本の特許請求の範囲に記載されていた構成事項を、原本の発明の詳細な説明の欄に記載されていた事項に又はその事項により特定するものであると共に、これによる特許請求の範囲の訂正の前後において発明の目的は同一であるから、上記訂正による特許請求の範囲の減縮は、特許請求の範囲の実質変更には該らない」(同訂正審判請求書一四頁二行ないし一五頁一〇行)から、右訂正は、「特許請求の範囲における明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とし、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない」(同訂正審判請求書一五頁一一行ないし一四行)と主張している。更に、当初の明細書の発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関しても、「使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協動して風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。」(本件公報一頁2欄一八行ないし二四行)を「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(本件訂正公報三頁右欄一行ないし一二行)とする訂正につき、右「訂正は、本発明が提供するのは訂正後の特許請求の範囲に記載された構成による風力推進装置であるところ、原本の記載のままでは対応関係が不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮と明瞭でない記載の釈明とを目的とする。」(同訂正審判請求書二一頁一〇行ないし一五行)と主張し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二三頁一六行ないし二四頁二行)と主張し、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジーョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二五頁三行ないし一三行)と主張している。
(五) その後、プロ事件について、昭和六〇年八月一二日、請求人株式会社プロは、右無効審判請求を取り下げた。
(六) そして、原告ウインドサーフインの右第二次訂正審判請求が認められて、昭和六〇年一一月二〇日、訂正審決がされた。右訂正審決によつて訂正された明細書が、本件明細書である。
右認定の事実によれば、原告ウインドサーフインがした第一次訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項においては、本体装置と風力推進手段に含まれる円柱との連結手段として、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」の語が用いられている。そして、発明の詳細な説明の項については、本件公報の記載と同一の記載について何らの訂正の請求もされていないから、右訂正明細書の発明の詳細な説明の項においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものを除けば、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そして、発明の詳細な説明の項の右記載部分における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、右記載部分における「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」の内容的な関係に照らせば、通常の用語法としては、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によつて並列的に結ばれているものと解するのが相当であつて、結局、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在するというべきである。右は、当初の明細書について既に述べたところ(前記7)と同様である。このことは、更に、第一次訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項において、前記のとおり「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」の語が用いられていることからも明らかである。すなわち、仮に右訂正審判請求に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の項に用いられている「ユニバーサルジョイント」の語が、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」をその実施例とする広い範囲の継手を意味するものであるとすれば、右訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の記載においても、本体装置と風力推進手段に含まれる円柱との連結手段として、「ユニバーサルジョイント」の語を用いる(例えば、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にするユニバーサルジョイント」と記載する。)のが、むしろ当然である。しかるに、右訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項には、前認定のとおり、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」と記載されているのであつて、このことからしても、右訂正審判請求に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の項における「ユニバーサルジョイント」の語は、特許請求の範囲の項に記載された前記「継手」と一致するものではなく、むしろ、右「継手」よりも狭い範囲の継手を意味する語であると解するのが合理的である。そして、右「ユニバーサルジョイント」については、その構成が開示されているのが、唯一、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであることは、当初の明細書におけるのと同様であつて、結局、当初の明細書について述べたところ(前記7)と同様、右「ユニバーサルジョイント」は、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
そして、原告ウインドサーフインは、第一次訂正審判請求を取り下げて、第二次訂正審判請求をしたものであるところ、右第二次訂正審判請求において、特許請求の範囲の記載を「ユニバーサルジョイント」の語を含むものに訂正し、右訂正は「明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」ものであると主張している。当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の語及び第一次訂正審判請求に係る訂正明細書における「ユニバーサルジョイント」の語が、前記のとおり、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものであるから、右第二次訂正審判請求書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、右訂正審判請求書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味するところは、当初の明細書及び第一次訂正審判請求に係る訂正明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
したがつて、右第二次訂正審判請求に基づく訂正審決によつて、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものであり、連結手段として、前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。
なお、第二次訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を前記のように解すべきことは、原告ウインドサーフインの、右訂正審判請求書における、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関する主張の内容に照らしても明らかである。すなわち、前記(四)で認定のとおり、原告ウインドサーフインは、右訂正審判請求書において、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張し、更に、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ペース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ペース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがきれていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張しているのである。右のとおり、「訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置である」と述べ、あるいは、「訂正後の特許請求の範囲に記載された・・・・帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ」と述べて、それぞれ、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントについての記載を付加していることからすれば、結局、原告ウインドサーフインは、特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」の作用をもたらすべき構成の開示としては、実施例である三軸腺ユニバーサルジョイントの構造がこれに該当するものとして、第二次訂正審判請求をしたものというべきである。したがつて、第二次訂正審判請求書における右記載からも、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」は三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。
9 以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」を備えておらず、構成要件Cを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。
五 よつて、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 若林辰繁 裁判長裁判官房村精一は転宮のため、裁判官三村量一は海外出張のため、署名捺印することができない。 裁判官 若林辰繁)
目録
別紙図面及び説明書に示すとおりの「風力推進波乗り装置(セイリングボード)」(商品名は別紙「商品名一覧表」に記載したとおり)
第1図
<省略>
第2図
<省略>
説明書
一 別紙図面の説明
(一) 第1図は風力推進波乗り装置(セイリングボード)の側面図、第2図はゴム・ジョイントの断面図である。
(二) 各図の符号は、次のとおりの各部材を示す。
本体装置(ボード部)・・・・・・・・・・・・a
セイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・b
マスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・c
ブーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・d
ウインドウ・・・・・・・・・・・・・・・・・e
切欠・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・g
マストスリーブ・・・・・・・・・・・・・・・h
ブームジョーアウト・・・・・・・・・・・・・i
ブームジョーイン・・・・・・・・・・・・・・j
ゴム・ジョイント・・・・・・・・・・・・・・k
フツトストラツブ・・・・・・・・・・・・・・l
テイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・m
ダガボード・・・・・・・・・・・・・・・・・n
スケグ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・o
マスト受部(ゴム・ジョイントの上方部分)・・k1
ゴム製屈曲部(ゴム・ジョイントの中間部分)・k2
ボード結合部(ゴム・ジョイントの下方部分)・k3
ピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・q
二 構造
1 波乗り板を形成する本体装置(ボード部)aの下面後方にはスケグoが装着されている。
2 本体装置(ボード部)aにはゴム・ジョイントkの下端部が結合され、ゴム・ジョイントkの上部にはマストcの下端部が嵌合されている。
3 マストcにはウインドウeを有するセイルbの一辺のマストリーブ(筒状部)hが嵌装され、セイルbの両側には二本のブームdが配設され、二本のブームdはマスト側(イン側)およびセイル端側(アウト側)の所定の位置でブームジョーインjおよびブムージョーアウトiによつて連結され、ブーム部のイン側はマストcに、アウト側はセイル先端部に固定されている。
4 ゴム・ジョイントkは、全体に三つの部分、すなわち、上方部分であるマスト受部k1と、中間部分であるゴム製屈曲部k2と、下方部分であるボード結合部k3とからなる。マスト受部k1はゴム製屈曲部k2に対して中心軸線(ピンq)の周りに回転できるように連結されている。
三 作動態様
1 本体装置(ボード部)a上には使用者不在で、風力推進手段が旋回防止力を失ない、水上に浮遊している状態から始まる。この状態においては、ゴム・ジョイントkは、その中間部分が屈曲し、ゴム・ジョイントkに嵌合されたマストcとマストcに装着されたセイルbは、水面上に倒れている。
2 使用者は本体装置(ボード部)a上の所定の位置に立つてマストcを引き起こし、セイルbの片側に配設されたブームdを両手で握つて、マストcに装着されたセイルbの位置を制御する。
3 使用者は両手で握つたブームdを押し、引き、回転させて風向に対し、セイルbを所望の位置に制御し、セイルbに必要な風力を受け入れてボードを望ましい方向に進行させる。この場合、セイルbの装着されたマストcと嵌合するゴム・ジョイントkは、使用者が操作するブームdの動きに応じ、ゴム・ジョイントkの軸線を中心として回転運動をし、また、前後左右の方向に所定の角度で屈曲し、傾斜する。
4 本体装置(ボード部)aの下面に装着されたスケグoは水中にあつてボードの直進性を保持している。
5 使用者はウインドウeを通して、反対側の状況を知ることができる。
6 操縦中に、突然の強風が襲つた場合など、転覆の危険が発生したときは、使用者はブームdから両手を放し、セイルbを風下に倒れさせて風力を回避する。
商品名一覧表
MAGUNUM PLUS
三九〇
三七〇
三〇〇
SEA JUMPER
ENDURO MKⅡ
MAGUNUM COMPETITION
NOVA
FUN
SODIM ST.TROPEZ S.T.
RAFAL S.R.
ECLAX S.E.
SALSA
ROXY
FUNKY
CHAPTER 三一五
CHAPTER 二八五
CHAPTER 二七〇
CHAPTER 二五〇
COMPOSIT HP 二七
HP 三三
HP 二八
HP 三六
SODIM SAINT TROPEZ ST
MAMBO
RAP
ESPACE
DIVISION Ⅱ
BROWNING CRAZYRED
WILD GREEN
BLUE UP
CUP 1
MAD BLACK
SLALOM GUN
SPEED GUN
WAVE RIDER
OPEN Ⅱ
WILD GREEN A
WILD GREEN B
BLUE UP A
BLUE UP B
BLUE UP C
CRAZY RED Ⅰ A
CRAZY RED Ⅰ B
CRAZY RED Ⅱ A
CRAZY RED Ⅱ B
MAD BLACK A
MAD BLACK B
MAD BLACK C
CUP ONE A
CUP ONE B
SL TERIITEHAU
訂正明細書
<34>風力推進装置
図面の簡単な説明
第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニパーサルジヨイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳接合部の断面図である。
発明の詳細な説明
本発明は風力推進装置に係る。
本発明が関係する分野は船特に帆船の分野である。
風力推進はボートや氷上ボートばかりでなく波乗り板のような船や陸上乗物例えば氷上ボートやそり、すなわち一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを操帆装置と制御機構の網細工にからませている。
帆を波乗り板に固定することによつてこの波乗り板としての楽しみは失われ且つ従来制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆船の速度と感じを得る代りに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。横ゆれに対する安定性がない波乗り板に帆を取付けることによつて突風や激風によつて波乗り板が転ぶくする問題が発生する。
故に従来は備えていなかつた風力推進手段を波乗り板に設け、この風力推進手段を設けることによつて波乗り板の元の乗心地や波乗り板を突風や激風下で転ぶくさせない制御特性を失わないようにすることが必要である。
本発明の目的は風に対する感応性と速度を増大し且つ波乗り板の従来の乗心地と操縦性すなわち制御特性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進手段を波乗り板に取付けることである。本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱のは方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた地端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジヨイントとを備えることをとする、風力推進装置を提供する。
特定の実施例において、ユニバーサルジヨイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。
本発明は波乗り板にうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言葉は航海技術者に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み、また安定性を増すために船体から平らに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。
本発明は殆んどすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速、方向転換、上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は回転及び起伏自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は激風時に使用者は帆をせば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。
第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三結線ユニバーサルジヨイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を分越えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。
円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中空になつているが中実な木や金属で作つても良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端線にあるアイレツト34の中に入つているローブ32によつて、前記円柱12に取付けられている。
第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジヨイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジヨイント36は全体を不銹で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている続め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹製管46の短い区画の両側に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。
不銹の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、52は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏することができる。
長さ3インチ(76.2mm)、直径1/4インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がグレビス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能にしている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸まわりに波乗り板10で回転させることができる。
第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120mm)のところに積層木製ブーム16、18を円柱の横方向に設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.4mm)幅の織物テープのループ80によつて互に連結され且つ円柱12を間に入れて該円柱に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80はい付け86によつて両端に真論リング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した真論製のフツク具88と係合することによつてテープ80をブーム16、18に固定する。
第1図と第4図を参照すればブーム16、18はそれらの他端部において帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された索止め96、98を備えている。出し索100が一方のブーム18の索止め98からそのブーム18の出し索孔94を通り、帆耳104の補強した孔102を通り、第2ブーム16の出し索孔92を通り、両方の出し索孔94、92を通りそこから別のブーム16の索止め96に通される。これにより、ブーム16、18はそれらの他端部において互に連結され且つ帆耳に連結される.つぎに出し索をびんと張つて索止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。
操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジヨイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を左か右に方向転換させる。これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つていけるようにする。彼が風にまともに向いているとき彼は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を捕え波乗り板10が新らしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する。速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる。
突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を脱する.帆14はその円柱にロープ106を備えており、これによつて使用者は容易に帆を帆走状態に引張りもどすことができる。
本発明の範囲から逸脱することなく多くの修正変更を行うことができる。
本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジヨイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手をせば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぶくを防ぐことができる。
<>特許請求の範囲
1 使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端線部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジヨイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。
FIG.2
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FIG.3
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FIG.1
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FIG.4
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<50>Int.Cl. B 63 h <52>日本分類 84 E 8 84 J 21 日本国特許庁 <11>特許出願公告
昭46-19373
<10>特許公報
<44>公告 昭和46年(1971)5月31日
発明の数 1
<54>風力推進装置
<21>特願 昭44-18073
<22>出願 昭44(1969)3月11日
優先権三張 <32>1968年3月27日<33>アメリカ国<31>716547
<72>発明者 出願人に同じ
<71>出願人 ヘンリー・ホイール・シニバイツアー
アメリカ合衆国カリフオルニア州バシフイツク・バリセードス・ベイルート317
同 ジニームス・ロバート・ドレークアメリカ合衆国カリフオルニア州ナンメ・モニカ・メサ・ロード385
代理人 弁理士 浅村成久 外3名
図面の簡単な説明
第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の旋回運動に使用するユニバーサルジヨイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱側接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳接合部の断面図である。
発明の詳細な説明
本発明は風力推進装置に係る。
本発明が関係する分野は船特に帆船並びに氷上ボートと陸上乗物の分野を言んでいる。
風力推進はボートや氷上ボートばかりでなく波乗り板のような船や陸上乗物例えば氷上ボートやそり、すなわり一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを操帆装置と制御機構の捨柱工にからませている。
普通の帆のない乗物に帆を設ける効果はこの乗物を氷上ボート又は陸上ボートにかえることである。すなわち帆を波乗り板に固定することによつてこの波乗り板とその楽しみは失われ且つ従来制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆船の速度と感じを得る代りに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。帆をつけるように修正した別の乗物についても同じような変化が生ずる。横ゆれに対する安定性がない乗物に帆を取付けることによつて突風や激風によつて乗物が転ぶくする問題が発生する。
故に従来は備えていなかつた風力推進装置を乗物に設け、この装置を設けることによつて乗物の元の乗心地や制御特性を失わないようにすることが必要である。
本発明は風に対する感応性と速度を増大し且つ従来の乗心地と操縦性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進装置を乗物に取付けることである。使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協働して風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つとのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。
特定の実施例において、ユニバーサルジヨイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。
前記風力推進装置は乗物の本体に枢着した円柱と、これに取付けた帆とを包含している。使用者か帆の片側久は両側を把持できるような装置を設けている。すなわち帆をびんと張るたわ円柱上に横方向に取付け手で保持するようになつたブームを設ける。特定の実施例において前記円柱に横ざきに呈つ円柱を間に入れてアーチ次に連結ざれる1対のブームを設ける。
本発明は水上旋や氷上ボートや裡上乗物に使用することができる。本発明はヨツトや小型自動車やカスーやこぎ舟等に使用できるが、波乗り板や氷上ボートやスケートボートやそりにもうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言葉は航海技術者に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み、また安定性を増すために船体から平らに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。
本発明は殆んどすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速も方向転換も上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は旋回自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は激風時に使用者は帆を離せば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。
第1図を参照すれば波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその本体部に設けた開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を幾分越えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。
円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中空になつているが中実な木や金属で作つても良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端線にあるアイレツト34の中に入つているローブ32によつて、前記円柱12に取付けられている。
第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジヨイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジヨイント36は全体を不銹で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている続め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹製管46の短い区画の両側に配置されている。<省略>インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。
不銹の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。<省略>インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。
長さ3インチ(76.2mm)、直径<省略>インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能にしている。
第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120mm)のところに積層木製ブーム16、18を設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.4mm)幅の織物テープのループ80によつて互に連結され且つ円柱12に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80は縦い付け86によつて両端に真論リング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した真論製のフツク具88と係合することによつてテープ80をブーム16、18に固定する。
第1図と第4図を参照すればブーム16、18はその帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された索止め96、98を備えている。出し索100が一方のブーム18の索止め98からそのブーム18の出し索孔94を通り、帆耳104の補強した孔102を通り、第2ブーム16の出し索孔92を通り、両方の出し索孔94、92を通りそこから別のブーム16の索止め96に通される。つぎに出し索をびんと張つて索止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。
操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジヨイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を左か右に方向転換させる。これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つて行けるようにする。彼が風にまともに向いているとき彼は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を捕え波乗り板10が新らしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する。速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる。
突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を脱する。帆14はその円柱にロープ106を備えており、これによつて使用者は容易に帆を帆走状態に引張りもどすことができる。
本発明の範囲から逸脱することなく多くの修正変更を行うことができる。
特許請求の範囲
1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつ制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。
FIG.1
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FIG.2
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FIG.3
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FIG.4
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特許審判請求公告
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特許公報
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